「即日退職」には(A)退職日を「今日・明日」にしたいケースと、(B)「今日・明日」から出社したくないケースの2種類があり、法的な意味合いが全く異なります。 まずご自身がどちらを望むのかを明確にし、適切な手順を選択することが重要です。
この記事で分かること
- 1|最初に確認すべき最重要事項:ご自身の雇用形態
 - 2|「即日退職」2つのパターンの実現ルート
 - 3|“明日から出社しない”を安全に実現する実務ステップ
 - 4|合意退職(退職日の前倒し)を目指すための交渉設計
 - 5|知っておきたい周辺知識
 - まとめ(ご自身の状況に合わせた判断フロー)
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1|最初に確認すべき最重要事項:ご自身の雇用形態
- 無期雇用(正社員など期間の定めがない契約)
→ 労働者が退職の意思表示をしてから2週間が経過すると、会社の承認(承諾)がなくても雇用契約は終了します。 - 有期雇用(契約社員、パート・アルバイトなど期間の定めがある契約)
→ 原則として、労働契約法第17条1項により、契約期間の途中で退職するには「やむを得ない事由」が必要です(但し、契約日から1年を経過した日以降は、労働者は使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます)。
つまり、無期雇用のように、意思表示から2週間で自動的に契約が終了するわけではありません。 
【実務上のTIP】
- 職種名(例:「アルバイト」)と法的な雇用形態(有期か無期か)は必ずしも一致しません。必ず雇用契約書や労働条件通知書でご自身の契約期間を確認してください。
 
    
2|「即日退職」2つのパターンの実現ルート
A. 退職日を「今日・明日」にしたい(雇用契約自体を即時に終了させたい)
- 必要なこと: 会社との合意(合意退職)
無期雇用の「2週間」ルールを短縮したり、有期雇用の契約期間途中で終了したりするには、会社側の「合意」が不可欠です。
→合意できなかった場合: 無期雇用であれば、原則通り「意思表示から2週間後」に契約終了となります。有期雇用の場合は、改めて「やむを得ない事由」の有無を主張するか、再度合意形成を目指すことになります。
→民間業者の交渉について: 退職日や条件に関する会社との交渉は「法律事務」にあたる可能性があり、日本の法律(弁護士法第72条)では、弁護士以外の第三者が報酬を得て行うことは禁じられています(非弁行為)。 
B. 「明日から出社したくない」(退職日は先でも、事実上出社しない状態にしたい)
- 実現手段:
まず退職届を提出し、退職の意思を明確に通知します(無期雇用なら2週間後の日付を退職日に指定)。
退職日までの期間、残っている年次有給休暇をすべて消化する申請をします。
有給休暇で足りない日数については、欠勤扱いとして処理することで、事実上の出社を回避します。 - 注意点: 欠勤は、賃金が支払われない(ノーワーク・ノーペイの原則)だけでなく、就業規則上、懲戒処分の対象となる可能性があります。ただし、既に退職の意思表示がなされている状況での懲戒解雇が常に有効とは限らず、個別の事情が考慮されます。
 
    
3|“明日から出社しない”を安全に実現する実務ステップ
- 退職届を提出する(証拠が残る方法で)
内容証明郵便、業務メールなど、会社に退職の意思が到達したことが証明できる方法を選びます。
無期雇用の場合は、退職日を「申入れ日から2週間後の日付」として明確に記載します。 - 年次有給休暇の残日数を確認し、取得を申請する
人事部や上長に残り日数を確認し、退職日から逆算してすべての日数を消化する旨を伝えます。 - 有給で不足する日数の扱いを明確にする
不足分は欠勤扱いとなることを受け入れる旨を伝えます。体調不良などが理由の場合は、医師の診断書を提出することで、無断欠勤ではなく正当な理由のある欠勤として扱われやすくなります。 - 最低限の引継ぎを行う
実害を回避するため、パスワード、物理的な鍵の保管場所、主要な連絡先、進行中案件の状況などをまとめた資料を作成し、データで送付します。 
    
4|合意退職(退職日の前倒し)を目指すための交渉設計
- 目的: 会社側にも「合意した方が合理的だ」と思ってもらえるような材料を提示すること。
 - 交渉材料の例:
社会保険料の節約提案: 月末ではなく、例えば「今月末日より前の日付」での退職を提案することで、会社側の翌月分の社会保険料負担がなくなるメリットを提示する。
引継ぎへの協力姿勢: 通常よりも詳細な引継ぎ資料を即日で提供するなど、具体的な協力姿勢を示す。
業務上の区切り: 会社の繁忙期を避けたり、進行中の案件が一段落するタイミングを提案したりするなど、業務への配慮を示す。 - これらの交渉は法律事務に該当しうるため、弁護士が代理人として介入することで、非弁リスクを完全に排除し、法的に整理された形で円満な着地点を設計することが可能です。
 
5|知っておきたい周辺知識
- 「退職願」と「退職届」の違い: 一般的に、「願」は退職の合意を“お願い”する書類(撤回可能)、「届」は退職を一方的に“通知”する書類(原則撤回不可)として区別されますが、最終的には内容の実質で判断されます。
 - 在職中の転職活動・就労(ダブルワーク): 在籍期間中に次の会社で働き始めること自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、多くの会社では就業規則で副業が制限されており、懲戒処分の対象となるリスクがあります。また、社会保険の二重加入手続きなど、複雑な問題も生じるため慎重な検討が必要です。
 - 欠勤と懲戒リスク: 退職の意思を明確に伝えた上で、体調不良など合理的な理由があれば、欠勤を理由に重い懲戒処分を科すことは難しい場合が多いです。医師の診断書などを準備しておくことが、リスクを低減する上で有効です。
 
    
まとめ(ご自身の状況に合わせた判断フロー)
- ゴールを明確化する: (A)契約自体を即時終了させたいのか、(B)明日から出社を止めたいのか。
 - 雇用形態を確認する: 無期雇用(民法627条)か、有期雇用(労契法17条)か。
 - (A)がゴールの場合: 合意退職を目指した交渉を行う(交渉材料の準備、必要に応じて弁護士へ相談)。
 - (B)がゴールの場合: 退職届を提出し、有給休暇を申請。不足分は欠勤扱いで対応し、最低限の書面引継ぎを行う。
 
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※本稿は一般的な情報提供を目的としています。個別具体的な事情により、最適な対応は異なります。
※本記事は法的な助言を構成するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
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